絶対に家の中にあるはずなのに、砂に飲み込まれたように文庫本に飲み込まれて消えた『砂の女』を仕方ないから書い直した。新装版のシルバーグレーの表紙を得るためにと自分を納得させて。水色もいいけど、確かに安部公房のイメージはシルバーだ。金属感がある。
個人的に安部公房は短編が良い。長編になると、書き続けるごとにテクストへの自意識が出てくるので、メタフィクショナルなものを志向し始めてしまう。そういう破壊的な感じも安部公房の魅力だよね、なんてスカしたことはもういう必要がない。正直『壁』も、『箱男』も、『第四間氷期』も、『方舟さくら丸』や『カンガルー・ノート』などの後期作品になればなるほど、あんまり面白いとは言えない。『他人の顔』『砂の女』『燃えつきた地図』くらいが、小生にとっての読みやすいものである。
特に『砂の女』は、まあ、読みやすい。それでも、失踪した男に関する調査書と、最後に公文書的テクストがあって、いわゆる寓話的なパートについてはそれらに挟まれた形で作中劇化している。
昆虫採集が趣味の男は、新種のハンミョウを探しに、砂丘めいた土地に行き、そこで、一泊しようと勧められた家にいくと、そのまま閉じ込められて、31歳くらいの女とともに生活せざるを得なくなる、というストーリー。安部公房にしては、ストーリーラインが素朴で、思想的な難解さはあるものの、それはそれとしてわからないまま、理解はできる。とにかく登場人物が少ない。
砂場にできた穴の中に家があり、砂が家に入り込んでくるから、搔き出さなくてはならず、搔き出された砂は、どこかに売られて、その売り上げをもらうことで女は生活できていた、という感じ。けれども、夫が亡くなってしまって、一人ではどうにもならなくなって、誰かを拉致して、そこに住まわせることを村全体で行っている、みたいな設計。
男は、砂の穴から出ようとするが、最初はままならず、やっと出られて抜け出ようとしたのだが、方向感覚を失って、元のところに戻ってきてしまう。それであきらめて、女と暮らしながら、いずれ出る算段を考えよう、みたいな空気になって終わり。
その辺の脱出をめぐるドキュメントが面白いんじゃなくて、どちらかというとこの異常な状態に対して折り合いをつけていく男の思想的変化が面白い。仕事の問題、外の世界の問題、性欲の問題、過去の問題、あらゆることが一応男の中で検討されたりするものの、すべてはあいまいなまま生活の中に霧散してしまう。その辺を、「人間存在の象徴的姿」などと言っていいのかどうなのか。いずれにしてもアレゴリックに読まれることを念頭において書かれていることはすぐにわかる。
なんだかでも、割と、ここちよく読めるんですよね。部分的にはよくわかるのに、全体的によくわからないのが安部公房作品。昔読んだ時より、面白く読めたな。何だろう、もしかしたら拉致問題っぽい気がしたからかな。