光朗(ミツルー)の読書日記

若いころに読んでわからなかった本を読みなおすブログ。ミツロウは使えなくて、なぜかミツルーになってしまった。

スタンダール『赤と黒』第二部 第四十五章

万事快調(Tout va bien)、ってったらゴダールにもそんなタイトルの映画あったな(1972)と思って、どんな表現なんだろと調べてみたら、当該の『赤と黒』では

 

Allons, tout va bien, se dit-il, je ne manque point de courage.

 

と書いてあった。まさに万事快調。

 

で、ゴダール、この映画を撮ったあと、グルノーブルに転居するんだっけ。

スタンダールが好きだったのかな。

 

というわけで最終章。

確かに、この章は、今までの長い時間を報いてくれる感じの良さがある。スタンダールは結末部分、かなり簡潔に事実だけポンポン置いていく癖があって、短編の『箱と幽霊』『ほれぐすり』なんかもそんな感じだったな。

 

⭐︎

 

ジュリアンに付き纏っている告解師を変えてもらおうとフーケにお願いしたりして、ジュリアンはもがいていたが、レナール夫人がきて、その悩みを打ち明けると、全て手配をしてくれた。

 

レナール夫人は無理を押して、週に2回ジュリアンに会う許可を取り付けた。マチルドは嫉妬に狂いそうになったが、ジュリアンを思う気持ちは強まった。フリレールがマチルドに、あれは夫に相応しくないと説得していたにも関わらず。

 

ジュリアンはマチルドに誠実に接しようとしていたのだったが、一方でレナール夫人への思慕は止められないと思った。そんなおり、マチルドを巡って恋敵だったクロワズノワ侯爵が決闘で死んだという報がもたらされた。ジュリアンは複雑な気持ちになったが、マチルドにはリュス氏と結婚するようにいい含めた。

 

ジャンセニストの告解師が到着したが、悔い改めて、特赦に願いを出すべきだという説得を始めた。皆からいい含められていたらしい。ジュリアンは頑なになった。

 

卑怯な真似をすることが今の自分には一番耐え難いということを述べた。レナール夫人もツテを辿ってシャルル10世にお願いすることを企画したが、そんな周囲の好奇の視線に晒されてまで辱めを受けたくないとジュリアンは考えた。そして、レナール夫人が動けば動くほど、田舎のヴァルノ氏やマスロンといった俗物が暗躍するからやめてほしいと述べた。

 

ジュリアンは刑の日を迎えた。

 

《さあ、申し分ない。勇気は十分ある》

 

滞りなく刑は執行された。

 

フーケに自分の遺骸をヴェリエールの見える場所に埋葬してほしいとジュリアンは頼んでいた。金を出せば、遺骸は売ってくれるだろうとも。そしてフーケは、その談判に成功した。

 

自分の部屋でフーケがお通夜をしていると、マチルドが入ってきた。そして、ジュリアンの首にキスをして、埋葬させてほしいとフーケに頼んだ。

 

ジュラの山の洞窟に、ジュリアンの遺骸は運ばれた。マチルドは首と一緒に馬車に乗り、それを埋葬した。

 

レナール夫人は、ジュリアンの刑の執行後3日目に、子どもたちを抱きながら亡くなった。

 

⭐︎

 

23年間という短い人生であったが、ジュリアンは色々なことを感じ、生きたと思う。頭の中で作られたイデーの小説という見方も、今ではわかるような気がする。おそらく、実人生であるならば、もっと多くの選択肢があり、もっと多くの力が動くのだろう。

 

会議を飛ばした小生だが、一番心に残ったフレーズは、刑に際して思う、ジュリアンのセリフですね。

どんなヘマをして、謝らなければならなくなったとしても、このフレーズを呪文として、使おうと思った。

 

Allons, tout va bien, se dit-il, je ne manque point de courage.

 

これを各訳者がどう訳すのかを記して、『赤と黒』を読了する。

 

英語

‘There, all is well,’ he said to himself, ‘I am not lacking in courage.’

 

小林正

《さあ、申し分ない。勇気は十分ある》

 

野崎歓

《よし、万事快調だ》と彼は思った。《ぼくは勇気満々だ》

 

桑原武夫生島遼一

《さあ、これで万事都合よし、おれは勇気を失っておらぬ》

 

鈴木力衛

《さあ、これで万事申し分ない。勇気は十分にある》

 

佐藤朔

《さあ、万事好調だ。勇気もたっぷりある》と彼は思った。

 

新庄嘉章

《さあ、これで万事よろし。おれは勇気を失っていないぞ》

 

古屋健三

《さあ、万事好調だ。勇気もたっぷりある》と、彼は思った。

 

富永明夫

《さあ、なにもかも好調だ。おれは少しも元気をうしなっていないぞ》と思った。

 

どれもいいけど、オッサンになると勇気なんかすぐに挫けて偽善の虜になるからね。

 

小生も、まだ朝だから、勇気もたっぷりある。

15:00くらいになると、すっからかんだけどね。