光朗(ミツルー)の日記

窓際社員のミツルーです。読書かと思えば最近は本当に日記です。

カート・ヴォネガット・ジュニア『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』1

ヴォネガットJr!名前だけは知っているが、あまり作品を読んだことのない人物の一人だ。先日、『20世紀アメリカ短編選』(岩波文庫)の下巻に所収されている「バーンハウス心霊力についてのレポート」という短編を読んで、やっぱり、偉大な作家だなと思い、昔、たぶん読んだふりしてペラペラめくっただけの『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』を読むことにした。トーマス・マンの『魔の山』、レフ・トルストイの『戦争と平和』なんてことを言っていたが、少しだけ軽めのものを間に挟みたい。19世紀はやっぱり疲れるのだ。

 

 

ちなみに、「バーンハウス心霊力についてのレポート」は、次のようにまとめられる。ネタバレになる。

 

 

ある能力が発見された。

それはサイコロの目を連続で7回同じ目を出すという現象から始まった。

兵卒だったバーンハウス氏が発揮した能力だった。

単なる偶然と思われていた能力だが、バーンハウス氏は研究の結果、それが時空を超えて行使できる物理力であることを証明した。

 

そこに、語り手である「私」が大学院生として配属された。

バーンハウス教授とともに、その力の解明を行い、実際にその力が引き起こす現象、威力、範囲といった部分について教授と共に明らかにしていった。

けれど、教授はその力がどのようにして行使されるのか、教授の頭の中でどのようなことが起こると力が生じるのかについては教えてくれなかった。

そして、この研究成果を平和のために使う意思を、軍首脳に伝える。

半信半疑ながらも、実際に力が行使された現象を見た首脳は、現実に戦争中の状況に介入させるという実験を行う。

バーンハウス教授は、艦隊の砲身を全て曲げ、飛行機を落とした。

そして、実験の場から姿を消した。

 

バーンハウス教授を追って、多くの勢力が暗躍した。

けれど、全ては失敗に終わった。

彼らは常にバーンハウス心霊力によって邪魔、破壊、阻害されてしまうからだ。

どこに教授は隠れているのかが、焦点となった。

そして、同じ力を持つ人々を探し出して、育成するプロジェクトも始まった。

平和のための力が新たな軍拡をもたらす皮肉な結果になっていく。

 

教授はどこからかそれを阻止しようと力を行使していることが新聞を通じて私にも伝わる。

私は、教授のためにレポートを書いている。

教授もいずれ捕まってしまうだろう。

その前に寿命がつきてしまうかもしれない。

教授は短命の家系なのだ。

 

そんな中、ある手紙が「私」の元へ届く。

それはよれた字で書かれた不思議な文字列で、おそらくは教授からのメッセージであろうことは推測できた。

「私」は、そのメッセージの解読を進め、教授の指示通りやってみた。

「私」にもサイコロの目を続けて50回連続で出せることがわかった。

 

バーンハウス心霊力は、教授が亡くなっても失われない。

そして「私」もレポートを完成させたら姿を消そうと思っている。

それでは、さようなら。

 

 

以上である。

 

 

素晴らしい構成力だと感じた。そして、おそらく、昔は、こうしたカチッとした構成を持つ小説が読めなかったのだと、自分を恥じる。

 

 

巨大な資産をローズウォーター財団は持っていた。1964年6月1日現在で、87,472,033ドル61セント。その資産に、若い弁護士のノーマン・ムシャリは惹きつけられた。

 

この資産は、全米長者番付の第14位を占めるローズウォーター家の資産の一部だった。誰かにむしられる前に、財団基金として別に保管しようとし、マッカリスター・ロブジェント・リード・アンド・マッギーという法律事務所を通じて、財団を立ち上げたのだ。ムシャリは、その事務所の若手だった。

 

この資産の保護はローズウォーター株式会社の責任だった。(株)ローズウォーターは、この資産をもとに多くの事業をしていた。しかし、資産が生み出した利益について、財団に対して何の発言力もなかった。一方で、財団のメンバーであるリスター・エイムズ・ローズウォーター上院議員の親類筋たちも、この会社の運営には関われなかった。

 

この資産は、「リスター・エイムズ・ローズウォーターに最も血縁の近い、最も年長の相続人にひきつがれてゆく」ことになった。まずは、リスターの長男のエリオット・ローズウォーターが、財団の総裁になった。1947年のことである。ムシャリが、この資産について興味を抱き始めた1964年に、エリオットは46歳。ムシャリは23歳であった。

 

ムシャリは、大それた望みを抱いていた。この資産が引き継がれる瞬間に一部をかすめとってやろうと。どうもエリオット・ローズウォーターは、微妙な人物であるらしい。いずれ、なんらかの形で、相続人として即時除名されることになるかもしれない。そうなったとき、次の総裁の代理人として、一部を失敬してやろう。そうムシャリは考えた。

 

このエリオット氏の微妙さを裁判で証明してもらわねばなるまい。ムシャリは考えた。そして、エリオットが用意していた、自分になにかあったときのための遺言を、こっそり読んだ。

 

エリオット氏は、この財産の来歴について、批判的な見解をもっており、その見地から一族の歴史を描いていた。そして、父のリスターは、財産を人任せにして、政治と道徳教育にいそしんだ。母は、小説を書いていた。そして、私、エリオット・ローズウォーター。妻はシルヴィアだが、おそらく離婚する。子どもももうけない。だから、君にこの遺産を譲渡するのだ。

 

ムシャリは行動を開始する。別れそうになっているエリオットの妻であるシルヴィアに、それとなく「当事者がおたがいの手紙を返却しあうのが習慣になっている」と告げ、53通の手紙を受けとった。

 

 

外国文学は冒頭の設定の理解が不可欠だ。物語が始まる状況設定、人物関係。その家系の歴史なんかが書かれた場合には、それらもちゃんと理解しないといけない。特にフォークナーなんかはそうだ。

 

巨大な資産の行方。現代日本においても、こうした大金をめぐる人々の動きは活発化している。みんな、カネ、カネ、言っている気がする。私もだ。転売、買い占め、投機、窃盗、詐欺、強請、強盗。カネをめぐって、人がギスギスしている。カネをめぐって、これほどまでに悪が組織化され、合法的にカネを誰もが奪い合おうとしている時代は、もしかしたら日本においては、はじめてなのかもしれない。

 

そんな雰囲気の中、ヴォネガットJr『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』は、読むにふさわしい内容なのかもしれない。

 

てか、昔、読んだはずなのに、忘れている。

読んでもいないのかもしれない。

つくられた記憶。