ひとはみんなうんこをする

旧「光朗(ミツルー)の読書日記」。谷川俊太郎さんのエッセイでみた一節がかっこよくて変えました。窓際社員の読書日記です。感想と日々の日記が混ざります。

重松清『答えは風のなか』〜2025年度版・新潮文庫の100冊を読んでいく〜 67

とうとう3分の2を超えた。残り3分の1。

先日読んだ『ぼくの友だち』と同様、『答えは風のなか』も、子どもを主に主人公にした、機知の効いた短編集だった。

しかし、そこに含まれているテーマは、コロナ、差別、原発、痴呆みたいな重いテーマもある。もちろん、テーマに軽重は本来ない。要するに、答えが簡単に出せないテーマを、この小説では取り扱っている。

意見は千差万別であるが、答えが出ない問題。

答えはその人の生き方になってしまう問題。

小生は、腰抜けなので、小説同様に、それらに答えを与えることはできない。

 

ただ、知る、考える、立ち止まる、ということが恥ずかしくても重要だ、ということは感じている。

素人である。素人ではあるけれども、理想の状態に少しずつ歩んでいくことはできる。

玄人や専門家に、それは遠回りですよ、と言われてもだ。

 

どうすればいいか正解が欲しい問題もある。

 

例えば、冒頭の短編は、「いいやつだな!」と言われて、アレコレとものを頼まれてしまう少年のことを書いている。「いいやつだな!」と言われるのが嬉しくて、最初は引き受けていたが、「いいやつだな!」がその子に物を頼むための呪文のようになっていると気づく。そして、断りたいが、それによって友情が失われるのではないかと思い、断れない。でも、父親の入院を機に、初めて断る。それによって離れていくものもあった。そして、もっとも親友となりたい子の頼みをどう断るか。ここで話は終わる。

 

これの正解は、わからない。小生はいいやつだなと言われてもあまり嬉しくないタイプだったから、こういう友達が欲しいという動機は、わかるようでわからない。居心地が良くなるように、全体と適切な距離を取るのが、小生の性格だった。

 

「おばあちゃんのメモ」は、延命治療の決断をめぐる家族の葛藤だし、「ふるさとツアー」は、廃棄物処理施設の建設をめぐる街に残るか出ていくかの葛藤、「ぼくらのマスクの夏」は、コロナ流行内での子どもたちの経験をめぐる葛藤、「しあわせ」は、おばあちゃんの介護をめぐる葛藤、「いちばんきれいな空」は、いちばん美しい空を書くという課題に曇り空を出して書き直しを示唆された子どもの葛藤、「ケンタの背中」は連れ子の兄弟の兄の葛藤、「おねえさんが教えてくれた」は、規制した田舎の旧弊な価値観をめぐる葛藤、「タケオの遠回り」は帰化の受容をめぐる葛藤、「あきらめ、禁止」は子どもの指導における若手教師の葛藤である。

 

どれも難しい葛藤だ。

 

という感じ。